
みなさんは、”絶壁”という言葉をご存知ですか?
頭のかたちに丸みがなく、ストンとまっすぐに見えたり、
左右のバランスが偏っていたりする頭の状態を、「絶壁」と呼ぶことがあります。
原因のひとつに“向き癖”がありますが、実は医療的ケア児にはこのような頭の形になりやすい傾向があります。
では、なぜそうなるのでしょうか?
1. 生まれたときから「右向き」
私の娘は、生まれて1か月NICUに入院しました。
面会するとき、ほとんど顔と体は右向き。「なんでずっと同じ方向なのかな?」と思っていましたが、実は理由がありました。
娘は生まれつき右の腎臓が大きく、左を向いてしまうと、その腎臓が腸を押してしまい、消化不良やほかの臓器を圧迫してしまうそうです。
そのため右向きでいることが、娘の体にとって「一番楽な姿勢」だったのだと思います。
今では腎臓の腫れは引いてきて、どんな体勢でも大丈夫と言われていますが、「右を向く癖」は残ったままです。
さらに娘には難聴もあり、音のする方向に顔を向けるということも難しく、自然と今も右方向を向いてしまいます。
2. 医療的ケア児とむきぐせ・絶壁の関係
同じように、医療的ケア児には「むきぐせ」からくる頭の形の悩みを持つ子が少なくありません。
たとえば──
- 嘔吐しやすいため、常に右を向かせて過ごす必要があった子
- 病気の治療のために、仰向け・横向きなど体勢が限定されていた子
- モニターやチューブの位置の関係で、どうしても同じ方向にしか向けない状況 など
たとえ病状が良くなっても、癖が残ったり、ケアの制限で改善のための体勢がとれなかったり。
「タミータイム(うつ伏せ遊び)」が良いとされても、呼吸器などの影響で簡単にできない子もいます。
3. 傷つく親心
元気にしている娘を見て、私は前向きに過ごせています。
でも、ふと頭のかたちを見て触ったとき、「ごめんね」「かわいそうだったかな」「もう戻らないのかな」思ってしまうことがあります。
さらに、「頭のかたち、絶壁だね」なんて言われてしまった日には──
悪気がないのは分かっていても、胸がちくっと痛みます。

「私のせいなのかな」と、責任を感じてしまうのです。
4. 見た目だけじゃない影響
むきぐせがあることで、頭の形だけでなく、斜視や歯並び、側弯(背骨の歪み)などにまで影響が出ると言われています。
一般的な赤ちゃんなら、ヘルメット治療やタミータイムなどで改善が期待されます。
また骨が徐々に固くなるまでの「1歳までなら治る」と言われても、医療的ケア児には制限があるので難しいのが現状です。
5. 心に響いた、あの一言

ある日、娘の頭をなでている訪問看護師さんにこう言いました。
「左も向ければいいんですけどね……」と。
すると、その看護師さんはこう言ってくれたのです。
「その子にしか分からない、快適さがあるんですよ。
モニター上は変わらなくても、もしかしたらこっち向きの方が呼吸しやすくて楽なのかもしれない。
見た目や他の影響もあるから、いろんな体勢はしたほうがいいけど、無理に変えなくていいと思いますよ。」
その言葉を聞いて、私はほっとしました。
娘が楽ならそれでいい。
娘が選んだ向きには、ちゃんと意味があった。無理に“正解”に近づけなくてもいいんだと、肩の力が抜けた瞬間でした。
おわりに
むきぐせや絶壁は、つい「親のせいかも」と思ってしまうテーマです。
特に医療的ケアが必要な子どもを育てていると、思うようにできないことも多く、周囲の何気ないひと言に傷つくこともあります。
でも、「その子が今、一番楽でいられること」も、ひとつの大切な答えなのだと思います。
見た目よりも大切なこと、たくさんあります。
完璧じゃなくても、子どもが心地よく過ごせているなら、それがいちばん。
どんな姿も愛おしい。今日も右を向いて、娘は穏やかな顔で眠っています。
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