小児・医療的ケア児の在宅・病院での身体拘束とは?抑制との違い・種類・対策を解説

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みなさんは、”身体拘束・抑制”という言葉を聞いたことはありますか?

医療的ケア児や重症心身障害児のケアでは、「身体拘束(抑制)」という難しい問題に向き合う場面があります。

たとえば入院中、挿管チューブや点滴、尿の管といった生命維持に欠かせない医療的ケアを自分で抜いてしまうリスクがある場合、事故を防ぐために一時的な抑制が行われることがあります。

また自宅でも、経管栄養チューブを頻繁に自分で抜いてしまったり、酸素チューブを外したり、あるいは目をひっかいてしまうこともあります。そうした場面でも、安全を守るためにやむを得ず抑制を行うことがあるのです。

本記事では、病院や在宅における身体拘束・抑制について、実際の対応やその意味を一緒に考えていきたいと思います。

1.身体拘束と身体抑制の違い

1)身体拘束(しんたいこうそく)

  • 厚生労働省は「本人の行動の自由を制限すること」と定義しています。
  • 例:転倒しないようにベッドにベルトで固定する、自由に動けないようにするなど。

2)身体抑制(しんたいよくせい)

  • 医療や看護の現場でよく使われる言葉。
  • 治療や安全確保を目的に、一時的に身体の動きを制限することを指すことが多いです。
  • 例:点滴ルートを抜かないようにミトン(手袋)をつける、チューブを外さないように軽く手を固定するなど。

つまり、「身体抑制は身体拘束の一部」と考えると分かりやすいです。

2.医療的ケア児・小児に身体拘束が行われる状況

1)転倒や転落を防ぐため

  • ベッドから落ちないようにする(乳幼児用ベッドは転倒転落、事後防止のためベッド柵が高くなっています)
  • 転倒して頭や身体をぶつけないようにする

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2)チューブや医療機器を抜かないようにするため

  • 点滴ルートや尿のカテーテル、胃瘻・経管栄養チューブを自分で抜かないようにする
  • 挿管チューブや酸素チューブを外さないようにする

3)自傷行為を防ぐため

  • 目をひっかく、顔や体を叩くなどでケガをしてしまうのを防ぐ
  • 精神的に混乱しているときに、自分を傷つけるのを防ぐ

4)他者への危険を防ぐため

  • 興奮して周囲を叩いたり、医療スタッフに危害を加える恐れがある場合

5)安全を確保するための一時的な対応

  • 手術や処置の直後で安静が必要なとき
  • 意識が混乱しているときに、ベッド柵に頭をぶつけるなど事故を防ぐため

6)緊急時・重症時

  • 急変時の挿管・処置中
  • 苦痛や不安で暴れてしまう場合など

3.小児特有の背景

  • 意思疎通の困難さ
     危険性を理解できず、「嫌だ」という行動が結果的に生命リスクにつながる。
  • 発達段階の影響
     じっとできず、処置中に動いてしまう。
  • 合併症
     暴れることで、心臓や呼吸などにさらに負担がかかってしまう。
  • 保護者の立ち会い
     成人と違い、親がつきそえる場合は、身体拘束を減らす大きな力になる。しかし、親の負担は大きい。

4.身体拘束の現状

1)身体拘束の割合

平成28年(2016年)3月公益社団法人 全日本病院協会「身体拘束ゼロの実践に伴う課題に関する調査研究事業
報 告 書
」では、8-9割の病院で身体拘束を行うことがあると回答していました。(p.ii)

※こちらは、病院の病棟全体の調査であり、成人・高齢者も含まれています。
基本的には身体拘束は「禁止」が原則であり、例外的にやむを得ない場合にのみ認められますが、実際の病棟では多く行われていることがわかります。

2)身体拘束が認められる3要件

  1. 切迫性
    • 本人や他者の生命・身体が危険にさらされるおそれが切迫していること。
    • 例:点滴や呼吸器を自分で外そうとし、生命に関わる場合。
  2. 非代替性
    • 身体拘束以外に代わりとなる方法がないこと。
    • 例:見守りを強化したり、声かけや環境調整をしても防げない場合。
  3. 一時性
    • 身体拘束は一時的なものであり、必要がなくなったらすぐ解除すること。
    • 例:処置や危険行動が落ち着いたら解除する。

5.身体拘束の流れ(例)

私が勤務していた病院での身体拘束の流れを説明します。身体拘束は人権侵害にもなりえるため非常に慎重に実施されます。

1)必要性の判断


・原則として 切迫性・非代替性・一時性 の3要件を満たす場合に、看護師が必要性を判断します。
・医師に状況を相談し、身体拘束以外で安全が保たれる方法を相談します。

2)患者・家族への説明と同意

・可能な場合は、患者本人および家族へ「なぜ必要か」「方法」「期間」などを説明します。
・書面による同意書を取得するのが基本です。
・ただし、緊急時は口頭(電話含む)での同意を得ることもあります。
その後、家族が病院に来た際に、書類にサインをもらいます。

3)医師の署名

・看護師の判断のみで行うことはできません。必ず医師に報告し、医師の許可を得たうえで実施します。

4)実施と観察

・抑制を開始した後は、受け持ちの看護師が 毎日3回(朝・昼・夜)、その必要性を確認します。
・抑制による皮膚トラブルがないかも確認します
・患者の状態が安定し不要と判断されれば、速やかに解除します。

5)継続の可否確認

・毎日or毎週、医師と相談して医師のサインをもらいます。
・多くの施設では 毎日の確認に加えて、毎週カンファレンスを行い、「本当に継続が必要か」「なぜ必要なのか」「代わりにできることはないか」をチームで検討します。

身体拘束については、年々かなり厳しく規制が強まっています。
”身体拘束を絶対に行わない””身体拘束を行う際は、看護師長の許可が必要””身体拘束の個数を減らす”病院もあります。
特に厚生労働省は繰り返し通知やガイドラインを出していて、「やむを得ない場合以外は禁止」というスタンスを一貫して打ち出しています。

6.身体拘束のメリット・デメリット

1)メリット

  1. 転倒や転落の防止
    意識障害・せん妄・小児の不随意運動などでベッドや椅子から転落する危険がある場合、一時的な拘束で骨折や頭部外傷を防げることがあります。
  2. 医療機器の自己抜去防止
    点滴ルート、人工呼吸器のチューブ、胃ろうカテーテル、尿道カテーテルなどは命に直結する医療機器です。患者さんや子どもが無意識に抜いてしまうのを防ぐことができます。
  3. 事故防止
    誤嚥や窒息、激しい体動による怪我を防ぐ意味があります。特に小児や医療的ケア児では、自分で危険を回避できない場合が多くあります。
  4. ケアの円滑化
    採血、処置、輸液など短時間で確実に行う必要がある場合、暴れることで針が折れたり余計な痛みを与えたりするリスクを減らせます。

2)デメリット

  1. 基本的人権の制限
    移動や自己決定の自由を奪うため、国際的にも人権侵害とみなされやすいです。
  2. 身体的リスク
    褥瘡(床ずれ)、筋力低下、不適切な拘束方法によって変形などを招く可能性があります。
  3. 精神的リスク
    強い不安、混乱、屈辱感、場合によってはPTSDのような後遺症を残すこともあります。

7.実際の身体拘束(例)

1)ミトン(手袋)

  • 指先を使えなくすることで、点滴や経管栄養チューブ、気管切開チューブなどを抜かないようにする。
  • 小児や医療的ケア児では比較的よく使われる。

2)手首・足首をベッドに固定(四肢抑制帯)

  • 手足をベッド柵に結びつけて、自由に動かせないようにする。
  • 暴力・医療機器を抜去するリスクが高い場合などに一時的に使われるが、強い人権侵害の懸念がある。

3)体幹をベッドに固定(抑制帯やベルト)

  • 胸や腰をベッドに固定し、転倒やベッドからの落下を防ぐ。
  • 長時間使うと呼吸抑制や褥瘡などのリスクが高い。

4)つなぎの服(おむつ外し・自己抜去防止)

  • 前開きやファスナーを工夫して、自分でおむつを外したり尿チューブを抜いたりできないようにする。
  • 医療的ケア児や認知症高齢者で使用されることがある。

5)4点柵(ベッド四方を柵で囲む)

  • 転落防止として一般的に使われる。
  • しかし、柵から乗り越えて転落すると逆に大怪我につながるため、拘束と同時にリスクもある。

8.心理的拘束・監視

1)センサー

本人が動いたときに「転倒や事故を防ぐために知らせる装置」のことを指します。
例をあげると、

てんとう虫(服にクリップをつける)

  • クリップが引っ張られてセンサーが外れると、ナースステーションに通知される仕組み。
  • 「見られている」「動いたら怒られる」と感じ、本人が自由に動けなくなる。

・床マット

  • マットを踏むとアラームが鳴り、すぐ職員が駆けつける。
  • 本人は「音を鳴らしてはいけない」と思い込み、動きたくても動けなくなる。

ベッドセンサー

  • 体圧を感知して、ナースコールが鳴る

2)監視カメラ

  • 監視されている感覚が強く、自由を奪われているように感じる

3)点滴のシーネ固定

  • 小児はじっとしていられず、点滴ルートを抜いたり、遊んでしまったりすることが多いです。
  • そのため、点滴を刺した部位(手や腕)にシーネを当て、包帯で軽く固定して、肘や手首を動かしすぎないようにします。
  • これにより、点滴が漏れる(血管外漏出)・抜けるといった事故を防げます

しかし、不快感や皮膚トラブル、循環障害のリスクもあります。

「安全な治療のための医療処置」というものがあり、身体拘束にはならなくても、
身体の自由を制限し、広義では「身体拘束」に含まれると解釈できるケースもあります。

9.おわりに:他の方法を考える

身体拘束は「安全のため」にやむを得ず行われることがありますが、医療従事者にとっても決して簡単な選択ではなく、葛藤や辛さを抱えるものです。親が知らない間に身体拘束が行われ、後から知ってショックを受けることも少なくありません。

「安全のために仕方ないのかな」と思う一方で、親にできることはあります。できる限り身体拘束に頼らずにすむ代替方法を一緒に探していきましょう。また皮膚トラブルがないかも注意しましょう。

医療者と親が「子どもの安全と尊厳を守りたい」という同じ思いを共有しながら、声をかけ合い、工夫を重ねることで、少しでも安心できる入院生活につながりますように。

身体拘束とひと口にいっても、その形や構造はさまざまです。たとえばミトンひとつをとっても、メッシュ素材や通気性の良いもの、エリザベスカラーのようなメガホンタイプ、市販品を工夫して使うもの、手作りのものまで幅広くあります。子どもの肌の状態や、汗のかきやすさ、動きの特徴などによって「合う・合わない」が違うため、その子に合わせた方法を探していくことが大切です。

「安全のために仕方ない」と感じる場面でも、素材や形を工夫することで、子どもの快適さや親の納得感が少しでも増すことがあります。身体拘束をゼロにすることが難しいときも、より安心できる方法を一緒に見つけていく姿勢が大切なのだと思います。

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