お盆はいかがお過ごしでしょうか。
お墓参りをしたり、大切な人について思いをはせたり、久しぶりに家族や親しい人とその方のことを話し合った方もいらっしゃると思います。
大切な人を亡くされたとき、皆さんはグリーフケアを受けましたか?
その悲しみを、どのように乗り越えてきたでしょうか。
もしかすると、今もなお辛い気持ちを抱えている方もいらっしゃるかもしれません。
今回は、悲しみに寄り添い、心の回復を支えるグリーフケアについてお話しします。
目次
1.グリーフケアとは、
グリーフケア(英語:Grief Care)とは、大切な人や存在を失ったことで生じる深い悲しみ(悲嘆)を抱える人に寄り添い、心の回復を支えるケアのことです。喪失は死別だけでなく、病気や離別、災害など様々な形で訪れます。
グリーフケアは、悲しみをなくすことではなく、その人が悲しみと共に生きていけるよう支えることを目的としています。
2.悲嘆の過程
日本グリーフケア協会によると悲嘆には次のような代表的な反応の経過が見られるとされています。
(1)亡くなった人を思い起こし・愛しい・恋しい思いに占有される「思慕と空虚」、
(2)人と違ってしまったような気後れ感覚に代表される「疎外感」、
(3)何もやる気がしないうつにそっくりな「うつ的不調」、
(4)自分を奮い立たせようとする「適応・対処の努力」
しかし、悲嘆の過程は必ずしも一直線ではなく、行ったり来たりすることが多いものです。
また、その人の死生観やこれまでの体験、周囲のサポート体制などによっても経過や表れ方は大きく異なります。

天使ママ・パパになると、それまで安心できたSNSという居場所からも疎外感を覚えることもあります。
3.遷延性悲嘆症
1)遷延性悲嘆症とは
国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センターのHPより、「米国精神医学会(2022年)によると、親しい人との死別以降、1年以上経過しても悲嘆反応が持続し、これが著しい苦痛や日常生活への支障を引き起こしている状態を指します」
引用:国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター2023年死別後に長引く悲嘆が共感性を抑制:悲嘆の脳科学的メカニズムを解明
2)症状
- 高血圧、心疾患、がん、頭痛、インフルエンザなどの罹患率の上昇
- 自殺念慮のリスク増大(Lathman, 2004; Prigerson et al., 1997)
- 主観的な健康感の低下
- 精神的症状の悪化
- 生活機能の低下
- 時間の経過によって自然に回復する人の割合は少ない(Otto, 2003)。
引用:武蔵野大学 中島聡美さん、国立精神・神経医療研究センター 伊藤正哉さん「大切な人との死別による
悲しみの理解と対応」(p.27)
3)受診や相談を検討したほうがいいサイン
- 食欲や睡眠の著しい変化(不眠・過眠・拒食・過食)
- 自傷や希死念慮(死にたい、消えたい)
- 周囲との関わりを完全に断つ
- 現実検討力の低下(亡くなった人が生きていると信じている など)
- アルコール・薬物依存 など
💡 大切なのは期間だけで判断しないこと
悲嘆の経過は人それぞれで、「3か月だから正常」「1年だから異常」と単純に区切れるものではありません。
周囲の人が本人の生活機能や心身の健康を確認することが大切です。
4.子どもの場合にみられるグリーフの反応
子どもは悲しみをうまく言葉にできないことが多く、大人とは違う形で感情を表します。そのため、周囲が「これは悲嘆の表れかもしれない」と理解することが大切です。
よく見られる反応の例
- 同じ遊びを繰り返す:安心感を得るために、同じごっこ遊びや人形遊びを続ける。
- 攻撃的な遊びや行動:叩く・蹴る・大きな声を出すなど、感情を外にぶつける。
- 物を壊す・いじめをする:自分の中の混乱や怒りを、周囲に向けてしまうことがある。
- 赤ちゃん返り:おねしょや甘え、抱っこを求めるなど、幼い頃の行動に戻る。
- 学業への影響:集中できず成績が下がる、不登校になる。
- 大人への不信感:「大切な人を守ってくれなかった」と感じ、大人全般への信頼が揺らぐ。
こうした行動は「わがまま」や「反抗」ではなく、悲嘆や不安、混乱の表れであることが多いです。責めるよりも、気持ちを受け止め、安心できる環境を整えることが大切です。
5.グリーフケアの実際
1)安心できる存在でいる
無理に話を引き出そうとせず、そばにいるだけでも安心につながります。「話したくなったら、いつでも聞くよ」という姿勢を見せましょう。
2)遊びや表現で気持ちを出せるようにする
子どもは言葉よりも遊びや絵で感情を表現することが多いです。ブロック遊びやお絵かき、人形遊びなど、自由にできる時間を用意します。
3)感情を否定しない
「そんなこと思っちゃだめ」「泣かないの」ではなく、「そう感じるんだね」「悲しいよね」と受け止めます。
4)生活のリズムを整える
食事・睡眠・登校(または家庭での学び)のリズムを保つことは、心の安定にもつながります。
5)学校や周囲と連携する
担任やスクールカウンセラー、保健室の先生などに状況を共有し、支えてもらえる環境をつくります。
6)専門家につなぐ
長く強い不安や怒りが続く場合は、児童精神科や臨床心理士など、専門的なサポートが必要になることもあります。
7)言葉に気をつける

「そんなに悲しんでいると、亡くなった人が成仏できないわよ」
「いつまで悲しんでいるの、前を向かないと」
こうした言葉は、一見すると励ましや気遣いのように聞こえます。
しかし、悲嘆の最中にある人にとっては、悲しむ気持ちを否定されたように感じてしまうことがあります。
悲しみは人それぞれのペースで向き合うものであり、「早く切り替えなければならない」という外からの圧力は、心を閉ざすきっかけにもなり得ます。
6.グリーフケアの困難さ
分類 | 困難点 | 説明 |
---|---|---|
本人側の要因 | サポート先がわからない | 公的機関や団体から情報が届かず、自分で探す必要があるが勇気が出ず行けないこともある。 |
向き合い方がわからない | 必要な情報や支えがなく、どう悲しみを乗り越えるか分からない。誰にも会いたくない時期もある。 | |
気を遣わせたくない | 話すことで相手を困らせるかも、理解してもらえないかもという不安から相談を控える。 | |
孤立の固定化 | 外に出るきっかけを失い、引きこもりが長期化する。 | |
感情表現への偏見 | 「もう泣かないで」「前を向くべき」などの言葉で悲しみを抑え込んでしまう。 | |
二次的な喪失 | 喪失体験により仕事・居場所・人間関係も失い、支援が複雑になる。 | |
周囲・支援者側の要因 | 医療従事者も戸惑う | グリーフケアの教育がなく、遺族に何をどう声かけすればいいのかわからない。 |
文化や価値観の違い | 宗教観や死生観の違いで、支援者と遺族の間に距離ができる。 | |
タイミングの難しさ | 悲嘆の渦中では支援を受け入れにくく、落ち着いてから探すと情報が途切れていることがある。 | |
環境・制度的要因 | 経済的・時間的制約 | 遺族会やカウンセリングが遠方・有料で通いにくい。 |
支援情報の不足 | 地域や制度によってグリーフケアの情報提供や窓口が整っていない。 |
7.医療従事者も経験するグリーフ
グリーフ(悲嘆)は患者や家族だけのものではなく、医療従事者もまた経験します。
たとえば、入浴介助中に患者さんが急変・亡くなってしまうこともあります。
そのとき、
- 「判断は間違っていなかったか」
- 「あの時こうしていれば助けられたのではないか」
- 「ご家族に申し訳ない」
と、自分を責めたり後悔する気持ちが強くなることがあります。
こうした思いは医療の現場では珍しくなく、心の負担となって蓄積していくこともあります。
医療現場では、患者さんの死後に「デスカンファレンス」という場が設けられることがあります。
これは**「どこが間違っていたのか」を追及するための会議ではありません**。
目的は、
- 亡くなられた患者さんのケア内容や経過を振り返る
- 自分や他のスタッフが感じた感情体験を共有する
- 「できていたこと」や「もっとこうしたかったこと」を語り合う
- 次のケアやチームの成長につなげる
ことです。
デスカンファレンスは、悲嘆を抱えたスタッフ同士が支え合い、前を向くきっかけになる大切な時間でもあります。
8.おわりに
訪問看護の事業所によっては、四十九日前後に再び訪問し、ご家族の心身の様子を確かめてくれたり、遺族会やサポート団体を紹介してくれることがあります。
身近な人には話しにくいことも、第三者や、ゆっくり話せる場だからこそ打ち明けられることがあります。
無理にすぐ前を向く必要はありません。
受け入れられないのは、ごく自然なことです。
その時間もまた、あなたと大切な人にとって大切な時間です。
周囲の方は、大切な人を亡くした方が遷延性悲嘆症、うつ病、**心的外傷後ストレス障害(PTSD)**を発症することもあることを知っておきましょう。
日々の様子や言動に変化がないか、さりげなく気にかけ、必要に応じて専門的な支援につなぐことが大切です。

」というスライドが、とても勉強になります。
医療者向けかもしれませんが一般の方も分かりやすいと思うのでぜひご覧ください。
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